【担い手3法改正】3つの柱「担い手確保・生産性向上・地域対応力」を解説
建設業界は今、大きな転換期を迎えています。深刻化する人手不足、伸び悩む生産性、そして災害対応など地域社会からの期待の高まり。これらの課題に立ち向かい、建設業が未来も持続可能な産業であり続けるために、令和6年(2024年)、「担い手3法」(建設業法、入札契約適正化法、公共工事品質確保促進法)が一体的に改正されました。
この改正は、単なるルールの変更ではありません。建設業が抱える構造的な課題を解決し、より魅力的な産業へと生まれ変わるための羅針盤となるものです。しかし、「改正で具体的に何が変わり、自社にどう影響するのか?」を正確に把握するのは容易ではありません。
そこでこの記事では、今回の担い手3法改正を「担い手確保」「生産性向上」「地域における対応力強化」という3つの重要な柱に沿って、そのポイントを分かりやすく解説します。
目次
建設業界の現状と課題
まず、今回の改正の背景にある建設業界の現状と課題を改めて確認しましょう。
担い手不足の深刻化: 建設業就業者数は令和5年(2023年)平均で483万人と、ピーク時(平成9年)から約3割減少しています。さらに深刻なのは年齢構成で、就業者のうち55歳以上が約36%を占める一方、将来を担う29歳以下は約12%にとどまっています(令和4年時点)。
このままでは技術・技能の承継が困難になることが強く懸念されています。(出典:総務省「労働力調査」結果に基づき国土交通省作成の資料より。関連情報:厚生労働省新潟労働局「建設業における人材確保に向けた取り組みについて」 )
生産性向上の遅れ: 建設業の労働生産性は近年上昇傾向にあるものの、依然として全産業平均と比較すると低い水準にあります。
また、一人あたりの年間総労働時間も全産業平均より長い傾向が続いており、長時間労働の是正と効率化が喫緊の課題です。
地域社会からの期待と課題: 建設業者数はピーク時から2割以上減少し、特に地方では中小・零細企業の割合が高い状況です。
こうした中、頻発する自然災害への対応やインフラ老朽化対策など、地域社会の安全・安心を守る地域建設業の役割はますます重要になっていますが、人手不足などがその活動を維持する上での課題となっています。(出典:国土交通省「建設業許可業者数調査」等。関連情報:日本建設業連合会「建設業ハンドブック 建設業の現状(2021年版)」)
担い手3法改正の目的
今回の担い手3法改正は、これらの課題を解決し、建設業の持続的な発展を図ることを目的としています。具体的には、働き方改革を進めて担い手を確保・育成し、技術革新等により生産性を向上させ、地域社会の安全・安心を支える体制を強化することを目指しています。
この記事で分かること
この記事では、令和6年の担い手3法改正について、以下の3つの視点から、具体的な改正内容とそのポイントを解説します。
- 担い手確保:
働きがいのある環境づくりと処遇改善のために何が変わるのか - 生産性向上:
建設現場の効率化とDX推進のために何が変わるのか - 地域における対応力強化:
地域建設業の持続可能性と役割発揮のために何が変わるのか
担い手3法とは?(改正の全体像)
今回の改正内容を理解する前提として、「担い手3法」の概要と、令和6年改正の全体像を簡潔におさらいします。
担い手3法(建設業法・入契法・品確法)の概要
- 建設業法:
建設業の許可、請負契約のルール、技術者制度などを定めた基本法。 - 入札契約適正化法(入契法):
公共工事の入札・契約の透明性・公正性を確保する法律。 - 公共工事品質確保促進法(品確法):
公共工事の品質確保と担い手育成のため、発注者の責務などを定める法律。
これら3つの法律が連携し、建設業の健全な発展を支えています。
令和6年改正のポイント
今回の改正は、以下の3つの柱に沿って、各法律に必要な見直しが行われました。
- 担い手確保・育成:
働き方改革(適正工期設定、時間外労働規制対応)、処遇改善(標準労務費の導入、下請代金への配慮)など「建設業法中心」 - 生産性向上:
技術者配置の合理化、ICT活用推進(発注者の責務)、施工体制の効率化(再下請制限緩和)など「建設業法、品確法中心」 - 地域における対応力強化:
適正価格での契約(予定価格への労務費反映)、施工時期の平準化、災害対応力の強化など「入契法、品確法中心」
改正の3つの柱:詳細解説
それでは、今回の改正の3つの柱、「担い手確保」「生産性向上」「地域における対応力強化」について、具体的な改正内容を見ていきましょう。
担い手確保
建設業の未来を支える「人」を確保・育成するための改正です。
技術者制度の見直し
- 主任技術者・監理技術者の配置要件緩和:
技術者不足に対応するため、一定の条件下で主任技術者の複数現場兼任が可能になったり、特例監理技術者を配置できる工事の範囲が拡大されたりします。これにより、限られた技術者をより有効に活用できるようになります。ただし、技術者の負担増や管理体制の確保には注意が必要です。【建設業法】
外国人材の活用促進
- 特定技能制度など:
担い手3法改正で直接的な変更はありませんが、建設分野における特定技能制度の活用など、外国人材の受け入れは引き続き重要なテーマです。国としても、適正な受け入れ環境の整備を進めています。
働き方改革関連
- 長時間労働の是正:
時間外労働の上限規制(2024年4月適用)を遵守できるよう、中央建設業審議会が「工期に関する基準」を作成・勧告します。発注者もこの基準を尊重する責務があります。【建設業法、品確法】 - 処遇改善:
国土交通大臣が、公共工事設計労務単価などを参考に「標準労務費」を定め、関係者に勧告できるようになります。また、元請負人には、下請契約時に労務費相当額について著しく低い見積もりや契約を行わないよう配慮する努力義務が課されます。【建設業法】 - 週休2日の確保:
公共工事において、発注者が週休2日を確保できる工期設定や経費計上に配慮する責務が明確化されます。【品確法】
生産性向上
より効率的でスマートな建設業を目指すための改正です。
ICT活用推進
- 建設DXの推進:
BIM/CIM(※)などのICT活用は、生産性向上の鍵となります。発注者には、ICT活用に積極的に取り組む責務が課せられ、公共工事におけるICT活用の取り組みが加速することが期待されます。【品確法】 - 施工体制情報のデジタル化:
施工体制台帳などの情報をデジタル化し、関係者間で共有する仕組み作りが進められます。これにより、情報共有の効率化や書類作成負担の軽減が期待されます。【入契法】
(※)BIM/CIM:Building/ConstructionInformationModeling,Managementの略。3次元モデルを活用し、計画・調査・設計段階から3次元モデルを導入し、施工、維持管理段階まで情報を連携・活用する取り組み。
施工体制の効率化
- 下請けへのしわ寄せ防止:
標準労務費の勧告や、労務費相当額への配慮義務により、不当な低価格での下請契約を防ぎ、元請・下請間の適正な関係構築を促します。【建設業法】 - 特定専門工事における再下請負制限の緩和:
鉄筋工事や型枠工事など、専門性が高く、元請負人の関与の必要性が低い「特定専門工事」について、元請負人と一次下請負人が書面で合意した場合、一定の条件下で再下請負(二次下請への発注)が可能になります。これにより、現場の実態に合わせた柔軟な施工体制の構築が期待されます。【建設業法】
地域における対応力強化
地域社会の安全・安心を守り、地域経済を支える建設業の役割を強化するための改正です。
地域建設業の受注機会確保
- 適正な予定価格の設定:
公共工事の発注者は、予定価格を設定する際に、労務費や資材費などの市場価格を適切に反映することが求められます。これにより、地域建設業者が適正な利益を確保し、経営を安定させることを目指します。【入契法】 - 多様な入札契約方式の活用:
価格だけでなく、技術力や地域貢献度なども評価する多様な入札契約方式(総合評価方式など)の活用が促進されます。これにより、品質や技術力で勝負できる地域建設業者の受注機会が増えることが期待されます。【品確法】
災害時の対応力強化
- 発注者の責務:
発注者は、災害時の応急・復旧工事が迅速かつ円滑に実施されるよう、建設業者との災害協定の締結や、緊急時の契約手続きの準備などに努める責務があります。【品確法】 - 施工時期の平準化:
公共工事の発注者は、工事の時期を平準化するための計画を作成・公表することが義務付けられます。これにより、特定の時期に工事が集中することを避け、年間を通じた安定的な事業運営と、災害時などの緊急時にも対応できる体制の確保を目指します。【品確法】
建設事業者が取るべき対応
これらの改正に対応し、変化を乗り越えていくために、建設事業者は以下の点を意識して準備を進めることが重要です。
情報収集
国土交通省や業界団体のウェブサイト、セミナーなどを活用し、改正法の詳細な内容や関連するガイドライン、今後の動向について、常に最新情報を収集しましょう。
社内体制の整備
- 担い手確保の観点:
就業規則を見直し、時間外労働の管理体制を強化する。賃金規定に標準労務費の考え方を反映させる。資格取得支援制度などを充実させる。 - 生産性向上の観点:
ICTツールの導入を検討する。BIM/CIMに対応できる人材を育成する。見積もり作成や施工管理の業務フローを見直す。 - 地域対応力強化の観点:
地域貢献活動への参加や、災害協定への加入を検討する。多様な入札方式に対応できる提案力を磨く。
専門家への相談
法改正に伴う具体的な対応(就業規則変更、契約書の見直しなど)については、弁護士や社会保険労務士、建設業専門のコンサルタントなどに相談し、適切なアドバイスを受けることをお勧めします。
改正を未来への一歩に
今回の担い手3法改正は、建設業が未来に向けて持続的に発展していくための重要なステップです。
改正のポイント再確認
- 担い手確保:働きがいと魅力ある職場環境の実現へ
- 生産性向上:デジタル技術と効率的な体制で競争力強化へ
- 地域対応力強化:地域社会の期待に応え、信頼される存在へ
変化への対応には、時として困難が伴います。しかし、この改正は、建設業界全体で課題を共有し、より良い未来を築くための大きなチャンスでもあります。
私たち建設ドットウェブは、建設業に携わる皆様がこの変化にスムーズに対応し、さらなる発展を遂げられるよう、最新の情報提供やITを活用した業務効率化支援を通じて、全力でサポートしてまいります。
法改正を前向きに捉え、自社の強みを見直し、未来への一歩を踏み出しましょう。