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収益認識基準の変更が建設業にもたらす影響と対応策

2025.03.05
基礎知識

収益認識基準の変更への対応は順調に進んでいるでしょうか。多くの建設会社が、契約内容の見直しや業務フローの整備に追われているのが実情ではないでしょうか。この記事では、収益認識基準の改正が建設業にもたらす影響と、実務上の対応ポイントを分かりやすく解説します。基準変更を前向きに捉え、自社の業務改善につなげるためのヒントが見つかるはずです。

収益認識基準の変更点と建設業への影響

近年、企業会計の国際的な統一化が進む中、日本でも新たな収益認識に関する会計基準が導入されました。この新基準は、建設業にも大きな影響を及ぼすと予想されています。

ここでは、収益認識基準の変更点と建設業への影響について解説します。

収益認識基準の概要と適用時期

収益認識基準とは、顧客との契約から生じる収益を、いつ、どのように計上するかを定めた会計基準です。この基準は、2018年に企業会計基準委員会から公表され、2021年4月以降に開始する事業年度から適用されています。

適用対象となるのは、主に大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上)、上場企業、そして株式公開を目指すIPO準備企業です。つまり、多くの建設業者がこの基準への対応を迫られているのです。

従来の基準との主な相違点

従来、収益の計上時期は、企業ごとに出荷基準、引渡基準、検収基準などから選択できました。しかし、新基準では、次の5つのステップに沿って収益を認識することが求められます。

  1. 顧客との契約を識別する
  2. 契約における履行義務を識別する
  3. 取引価格を算定する
  4. 取引価格を履行義務に配分する
  5. 履行義務を充足した時に(または充足するにつれて)収益を認識する

この5ステップモデルによって、企業間の収益認識の方法が統一され、財務諸表の比較可能性が向上すると期待されています。

建設業に予想される影響

建設業では、工事進行基準と工事完成基準という2つの収益認識方法が用いられてきました。新基準の適用により、これらの方法がどのように変化するのでしょうか。

まず、工事進行基準については、一定の要件を満たす場合に限り、引き続き適用が認められます。ただし、進捗度の測定方法などに変更が生じる可能性があります。

一方、工事完成基準を採用している企業は、新基準への移行に伴い、収益認識のタイミングが大きく変わるかもしれません。契約内容や履行義務の識別次第では、従来よりも早期に収益を計上できるケースも考えられるのです。

建設業の特性と収益認識の課題

建設業には、他の業界とは異なる特性があります。例えば、一つの工事が長期間にわたることや、設計変更や追加工事が発生しやすいことなどです。こうした特性が、新基準の適用を複雑にしている面があります。

具体的には、履行義務の識別や取引価格の見積りが難しいケースが多いのです。契約の内容を細かく分析し、適切な会計処理を行うには、相当な時間と労力を要するでしょう。

加えて、工事の進捗度合いに応じて収益を認識する際、その測定方法をどのように定めるかも悩ましい問題です。客観的で合理的な基準を設けることが求められます。

このように、建設業では収益認識基準の適用にあたり、様々な課題が浮上しています。各社が自社の実情に合わせて、着実に対応を進めていく必要がありそうです。

新基準適用に向けた建設業者の実務対応

ここでは、建設業者が新基準の適用に向けて取り組むべき実務的な対応策を具体的に検討していきます。

契約内容の見直しと整備

新基準では、顧客との契約が収益認識の出発点となります。したがって、既存の契約書を丹念に見直し、必要に応じて修正や追加を行うことが重要です。

特に、工事の範囲や支払条件など、収益認識に直結する契約内容については、より明確かつ詳細に定めておく必要があるでしょう。また、変更や追加工事が生じた場合の取り扱いについても、予め定めておくことが望ましいといえます。

加えて、契約書のひな型を整備し、社内で統一的に運用することも有効です。契約管理の効率化と、会計処理の一貫性確保につながるからです。

履行義務の識別と収益認識時期の判断

新基準の中核をなすのが、履行義務の概念です。契約における履行義務とは、顧客に財やサービスを移転するという約束のことを指します。この履行義務を適切に識別することが、収益認識の第一歩となります。

建設業の場合、工事の内容によって履行義務の識別が難しいケースも少なくありません。例えば、設計と施工が一体となっている契約や、複数の工事が一つの契約に含まれている場合などです。こうしたケースでは、契約の分割や統合を検討する必要も出てくるでしょう。

また、識別した履行義務ごとに、収益認識の時期を判断することも求められます。一時点で収益を認識するのか、一定の期間にわたって認識するのか。この判断は、工事の進捗度合いの測定方法とも密接に関わってきます。

変動対価(値引き等)の見積りと配分

建設業では、工事の進捗に応じて段階的に代金を受け取るケースが多く見られます。また、引渡し後の瑕疵担保責任を負うことも珍しくありません。こうした状況下では、変動対価の存在を考慮に入れる必要があります。

変動対価とは、値引きやリベート、ボーナス、ペナルティーなど、金額が変動する可能性のある対価のことです。新基準では、変動対価を合理的に見積もり、取引価格に反映させることが求められます。

見積りにあたっては、過去の実績や現在の状況、将来の予測などを総合的に勘案する必要があります。また、見積った変動対価を履行義務に適切に配分することも重要なポイントとなります。

業務フローとシステムの見直し

収益認識基準の変更は、経理部門だけでなく、営業や工事管理など、様々な部門の業務に影響を及ぼします。新基準に対応するには、社内の業務フロー全体を見直し、必要な手順や書類を整備していく必要があります。

例えば、見積書や注文書、検収書などの帳票類も、新基準に沿った様式に改める必要が出てくるかもしれません。また、工事の進捗管理や原価計算の方法なども、収益認識に合わせて適切に設計し直さなければならない場合があります。

さらに、こうした業務フローの変更に伴い、社内のシステムを改修することも視野に入れておく必要があります。特に、大規模な組織では、会計システムと業務システムの連携が欠かせません。システム対応には一定の時間とコストを要するため、早めに着手することが重要です。

会計監査人との早期協議の重要性

新基準の適用にあたっては、会計監査人との綿密なコミュニケーションが欠かせません。特に、上場企業やIPOを目指す企業は、監査法人の理解と支援を得ることが極めて重要になります。

収益認識の方針や判断プロセスについて、早い段階から監査法人と協議を重ねることをお勧めします。具体的には、契約のマトリックス図を作成し、N-3期末までに監査法人の確認を得ておくことが望ましいとされています。

また、新基準の適用による財務諸表への影響についても、監査法人と十分に議論しておく必要があります。特に、経営指標や財務制限条項に与える影響は、早めに把握し、必要な対策を講じておくべきでしょう。

会計監査人との良好な関係を築き、適切なアドバイスを得ることが、新基準への円滑な移行の鍵を握ると言えるのです。

建設業における収益認識基準変更の事例と教訓

ここでは、建設業界における収益認識基準変更の事例と教訓について解説します。

大手ゼネコンの対応事例と学びポイント

大手ゼネコンA社は、新基準への対応にあたり、まず全社的なプロジェクトチームを立ち上げました。このチームが中心となって、契約内容の見直しや業務フローの整備を進めたのです。特に、工事の進捗度合いに応じた収益認識の仕組みづくりに力を注ぎました。

具体的には、工事の種類ごとに標準的な進捗率を設定し、その進捗率に基づいて収益を計上する方式を導入しました。これにより、工事の進捗状況と収益認識のタイミングが連動するようになり、より実態に即した財務報告が可能になったのです。

A社の事例からは、全社を挙げた取り組みの重要性と、業界特性を踏まえた収益認識モデルの構築の必要性を学ぶことができます。新基準への対応は、一部の部門だけでなく、組織全体で推進していくことが大切だといえるでしょう。

専門工事業者の対応事例と留意点

一方、専門工事業者B社は、大手ゼネコンとの下請契約が主な収益源でした。そのため、元請である大手ゼネコンの動向を注視しつつ、自社の収益認識方針を検討する必要がありました。

B社は、元請から提示された契約条件を精査し、自社の履行義務を明確化することから着手しました。その上で、工事の内容や進捗度合いに応じて、一時点または一定期間で収益を認識する方針を定めたのです。

ただし、専門工事業者の場合、元請との力関係から、契約交渉の余地が限られるケースも少なくありません。下請契約の内容次第では、新基準の適用が自社に不利になる可能性もあります。リスクシナリオを想定し、対応策を練っておくことも重要だといえます。

海外事例に見る建設業の収益認識の考え方

米国や欧州など、IFRSや米国会計基準を採用している国々では、日本よりも早くから収益認識基準の変更が行われてきました。それらの国の建設業者の対応事例を参考にすることも有益でしょう。

例えば、米国の建設大手C社は、契約の結合・分割の考え方を明確化し、履行義務の識別プロセスを標準化することに注力しました。また、英国の建設会社D社は、変動対価の見積りに確率加重平均法を用いるなど、高度な収益認識モデルを構築しています。

海外企業の先進的な取り組みからは、顧客との契約管理の重要性や、収益認識における見積りの精緻化の必要性などを学ぶことができます。グローバルな視点を持つことが、新基準への対応力を高めることにつながるのです。

基準変更を業務改善の好機と捉える視点

収益認識基準への対応は、単なる会計処理の変更にとどまりません。むしろ、この機会を契機として、業務フローや社内体制の抜本的な見直しを図ることが重要です。

例えば、契約書の雛形を整備し、収益認識に必要な情報を漏れなく盛り込むようにするのも一案です。また、工事の進捗管理システムを刷新し、より精緻なデータ収集・分析を可能にすることも考えられます。こうした取り組みは、収益認識の適正化だけでなく、業務の効率化や品質向上にもつながるはずです。

新基準への対応を、会計だけの問題と捉えるのではなく、事業全般を見つめ直す契機と捉えることが大切なのです。

収益認識基準の理解を深めるための情報源

実際に新基準への対応を進めるには、さらに詳しい情報が必要となるでしょう。ここでは、建設業者が収益認識基準の理解を深めるための有益な情報源を紹介します。

建設業向けの解説資料とガイドライン

収益認識基準の理解を深めるには、まず国土交通省や建設業協会が公表している建設業向けの解説資料を参照することをお勧めします。これらの資料では、具体的な設例を交えながら、建設業における収益認識の考え方や留意点が丁寧に説明されています。

例えば、国土交通省の「建設業における収益認識に関する会計基準の適用に係る実務上の取扱い」では、工事進行基準の適用要件や、契約変更時の会計処理などが詳しく解説されています。また、日本建設業連合会の「建設業における収益認識に関する会計基準への対応に向けたガイドライン」も、業界特有の論点を網羅的に取り上げた有益な資料と言えます。

これらの解説資料やガイドラインを入念に読み込むことが、新基準の正しい理解につながります。自社の実情に即した対応を進める上でも、まずはこうした資料に目を通すことから始めるとよいでしょう。

会計士による建設業者向けセミナー情報

次に、公認会計士や監査法人が主催する建設業者向けセミナーも有益な情報源となります。こうしたセミナーでは、収益認識基準の概要説明だけでなく、建設業の実務に即した具体的な適用方法や留意点についても解説されることが多いのです。

特に、自社と同規模の建設業者の事例紹介などは、大変参考になるはずです。また、セミナー終了後に講師に直接質問できる機会もあるため、自社の状況に合わせたアドバイスを得られる可能性もあります。

会計事務所のウェブサイトやメールマガジンなどで、定期的にセミナー情報をチェックしておくとよいでしょう。オンラインセミナーであれば、地理的な制約を受けずに参加できるのもメリットです。新基準への理解を深める手段の一つとして、ぜひ活用を検討してみてください。

建設業関連団体による支援策と相談窓口

建設業の業界団体も、会員企業の新基準対応を支援するため、様々な取り組みを行っています。例えば、日本建設業連合会では、会員向けの説明会や勉強会を開催しているほか、個別の相談にも応じる窓口を設置しています。

全国建設業協会や都道府県の建設業協会でも、同様の支援策を講じているところが少なくありません。会員企業であれば、これらの支援策を無料または割安な料金で利用できる場合が多いのです。

自社の規模や業態に応じて、加盟する業界団体の支援メニューを確認してみるとよいでしょう。専門家による助言や、同業他社との情報交換の機会が得られれば、新基準対応の手がかりが見えてくるかもしれません。

自社に合った対応を進めるためのポイント

ここまで見てきたように、収益認識基準に関する情報源は数多く存在します。ただし、あまり多くの情報を追いかけすぎるのは得策ではありません。重要なのは、自社の実情に合った情報を選択し、着実に理解を深めていくことです。

まずは、社内の経理担当者や役員を中心に、新基準の基本的な内容を習得することから始めましょう。その上で、自社の事業内容や契約実態に即して、より詳細な検討を進めていくことが肝要です。

場合によっては、外部の専門家に相談することも必要になるでしょう。顧問の公認会計士や税理士、監査法人などを頼るのも一案です。ただし、最終的な判断は経営者自身が下さなければなりません。外部の意見を参考にしつつも、自社の実態を踏まえた対応を心がけることが何より大切なのです。

まとめ

収益認識基準の変更は、建設業に大きな影響を及ぼします。新基準では、契約の識別から収益認識までの5ステップアプローチが求められ、履行義務の認識や取引価格の算定など、従来とは異なる会計処理が必要となります。各社は、自社の事業特性を踏まえつつ、契約内容の見直しや業務フローの整備を着実に進めていく必要があるでしょう。大手ゼネコンや専門工事業者の先行事例からは、全社的な取り組みの重要性や元請との関係性への配慮など、多くの示唆が得られます。

また、基準変更を業務改善の好機と捉え、前向きに活用していくことも肝要です。理解を深めるには、業界団体の解説資料やセミナー、専門家への相談など、様々な情報源を活用するとよいでしょう。自社に合った対応を進め、新基準を確実に乗り越えていくことが、建設業者に今求められているのです。

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