建設業の勘定科目一覧と使い方の完全ガイド
建設業で勘定科目の処理に頭を悩ませていませんか?この記事では、建設業特有の勘定科目の意味や使い方、具体的な仕訳例を解説します。正しい勘定科目の理解は、適切な原価管理や収益性の把握につながり、会社の利益向上に役立ちます。
建設業会計の基本的な特徴と背景
建設業は、他の産業とは異なる特有の会計処理が必要とされる業界です。その背景には、建設プロジェクトの長期性や、請負契約に基づく収益認識の複雑さなどがあります。
建設業会計の基本的な特徴を理解し、適切な処理を行うことは、建設企業の経営における重要な課題の一つといえるでしょう。ここでは、建設業会計の基本的な特徴と背景について、詳しく見ていきます。
建設業特有の会計処理の必要性
一般的な企業会計の基準では、建設業特有の会計処理に十分に対応することが難しいケースがあります。その理由は、建設プロジェクトの長期性や、請負契約に基づく収益認識の複雑さにあります。
建設プロジェクトは、着工から竣工までに1年以上の期間を要することが一般的です。そのため、着工初年度は支出が先行し、売上の計上ができない一方で、2年目以降に多額の売上と利益が集中する傾向があります。
また、建設業では天候や材料輸入の影響を受けやすく、進捗管理が困難になるケースもあります。加えて、着工時と竣工時では材料費や労務費の価格変動リスクも存在します。このような状況に対応するためには、建設業特有の会計処理が必要不可欠なのです。
請負契約と分割払いの一般的な形態
建設業では、請負契約が基本となり、契約時・中間時・完成後の分割払いが一般的です。請負契約とは、建設業者が発注者から工事を請け負い、完成後に対価を受け取る契約形態のことをいいます。
建設工事は長期間にわたるため、契約時に全額を受け取るのではなく、工事の進捗に合わせて分割して対価を受け取ることが一般的です。この分割払いの方法は、建設業者の資金繰りを安定させるために重要な役割を果たしています。
ただし、分割払いの方法は契約によって異なるため、建設業者は契約内容を十分に確認し、適切な会計処理を行う必要があります。
収益認識基準の概要
建設業における収益認識基準には、大きく分けて3つの方法があります。
1つ目は工事完成基準です。これは、工事が完了し、引き渡しが行われた時点で一括して売上を計上する方法です。工事中は売上を計上せず、最もシンプルな基準といえます。
2つ目は工事進行基準です。以下の要件を満たす長期大規模工事について、適用が義務付けられています。
- 工事期間が1年以上
- 請負金額が10億円以上
- 請負代金の半分以上が引渡し後1年以上後に支払われないこと
工事の進捗状況に応じて段階的に売上を計上する方法で、未完成の状態でも決算時点での収益と費用を見積もって計上します。
3つ目は原価回収基準で、2021年の新収益認識基準で導入されました。工事の進捗状況が合理的に見積もれない場合に使用され、発生した費用分のみを売上として計上します。これは暫定的な処理方法で、見積もりが可能になれば工事進行基準に移行します。
建設業者は、自社の状況に合わせて適切な収益認識基準を選択し、正確な財務諸表を作成する必要があります。
原価計算の詳細構造
建設業における原価計算は、工事ごとの収益性を正確に把握するために欠かせません。ここでは、建設業特有の原価要素や計算方法、実務上の留意点などについて詳しく解説します。
建設業における4つの主要な原価要素
建設業の原価は、大きく分けて4つの要素で構成されています。まず、工事に直接使用する資材などの費用である「材料費」があります。次に、現場で働く従業員の給与や手当などの「労務費」が挙げられます。
3つ目は、建設業で特に比重が高い「外注費」です。これは、専門的な工事を外部の業者に委託する際の費用を指します。最後に、水道光熱費や交通費、通信費、減価償却費などの「経費」があります。
これらの原価要素を適切に管理し、配賦することが、正確な原価計算につながります。特に、外注費の割合が高い建設業では、外注先の選定や発注額の管理が重要なポイントとなります。
建設業に適した原価計算方法
建設業では、一般的に「個別原価計算方式」が採用されています。これは、工事現場ごとに独立して原価を管理する方法です。各現場で発生した材料費、労務費、外注費、経費などを集計し、その工事の原価総額を算出します。
この方式を用いることで、工事案件別の収益性分析が可能になります。つまり、どの工事が利益を生み出し、どの工事が赤字になっているのかを明確に把握できるのです。
ただし、個別原価計算方式を正確に運用するためには、現場ごとの原価データを漏れなく収集する必要があります。そのため、現場と経理部門の連携が欠かせません。
工事案件別の収益性分析の重要性
建設業では、工事案件ごとの収益性を正確に把握することが経営上の重要課題です。個別原価計算方式を用いれば、各工事の売上高と原価総額を比較し、利益率を算出できます。
この情報を基に、利益率の高い工事を受注し、赤字リスクの高い案件は避けるといった判断が可能になります。また、原価の内訳を分析することで、コスト削減の余地がある部分を見つけ出すこともできるでしょう。
ただし、工事案件別の収益性分析を正確に行うためには、適切な原価計算が不可欠です。そのため、経理担当者は建設業特有の勘定科目や計算方法を十分に理解しておく必要があります。
原価管理の実務上の留意点
建設業の原価管理を適切に行うためには、いくつかの実務上の留意点があります。まず、現場ごとの原価データを漏れなく収集することが重要です。そのためには、現場責任者と経理部門の密接な連携が欠かせません。
また、建設業特有の勘定科目を正しく使い分けることも必要です。例えば、工事の進捗度合いに応じて「未成工事支出金」や「完成工事原価」といった科目を適切に用いる必要があります。
さらに、建設業の原価計算は一般的な会計処理よりも複雑であるため、専門性の高い人材の確保と育成が重要です。加えて、会計基準の変更にも柔軟に対応できるよう、継続的な知識のアップデートが求められます。
建設業に特有な勘定科目と仕訳例
ここでは、建設業特有の勘定科目について、収益関連、原価関連、仕掛品関連、債権債務関連の4つの観点から解説します。
収益関連の特殊な勘定科目
建設業の収益に関連する特殊な勘定科目として、「完成工事高」があります。完成工事高は、工事が完了し、発注者に引き渡された時点で計上される売上高を指します。工事完成基準を採用している企業では、工事が完了するまでは売上を計上せず、完成時に一括して完成工事高として処理します。
原価関連の特殊な勘定科目
建設業の原価に関連する特殊な勘定科目には、「完成工事原価」があります。完成工事原価は、完成工事高に対応する原価のことで、労務費、材料費、外注費、経費などが含まれます。工事の完成時に、それまで集計していた原価を完成工事原価勘定に振り替えて処理します。
仕掛品関連の特殊な勘定科目
建設業の仕掛品に関連する特殊な勘定科目として、「未成工事支出金」があります。未成工事支出金は、工事の進行途中で発生した原価を一時的に貯める勘定科目です。労務費、材料費、外注費、経費などを工事ごとに集計し、完成するまでは未成工事支出金として処理します。工事が完成した時点で、未成工事支出金を完成工事原価に振り替えます。
債権債務関連の特殊な勘定科目
建設業の債権に関連する特殊な勘定科目には、「完成工事未収入金」があります。完成工事未収入金は、工事が完成し、引き渡しが終わったにもかかわらず、まだ代金の回収ができていない債権を表します。一方、債務に関連する特殊な勘定科目として、「未成工事受入金」と「工事未払金」があります。未成工事受入金は、工事着手前や工事途中に受け取った前受金を指し、工事未払金は、外注費などの未払い分を表します。
各勘定科目の具体的な仕訳例
ここでは、上述した特殊な勘定科目の具体的な仕訳例を見ていきましょう。
まず、完成工事高の仕訳例です。工事が完了し、発注者に引き渡した時点で、次のような仕訳を行います。
- (借方)完成工事未収入金 〇〇万円 /(貸方)完成工事高 〇〇万円
次に、完成工事原価の仕訳例を見てみましょう。工事が完成した時点で、集計していた未成原価を完成工事原価へ振り替えます。
- (借方)完成工事原価 〇〇万円 (労務費 〇〇万円、材料費 〇〇万円、外注費 〇〇万円、経費 〇〇万円)/(貸方)未成工事支出金〇〇万円
未成工事支出金の仕訳例は以下の通りです。工事の進行途中で発生した原価を、未成工事支出金として処理します。
- (借方)未成工事支出金 〇〇万円 (労務費 〇〇万円、材料費 〇〇万円、外注費 〇〇万円、経費 〇〇万円)/(貸方)工事未払金〇〇万円
最後に、債権債務関連の仕訳例を見ていきましょう。完成工事未収入金の回収時には、次のような仕訳を行います。
- (借方)当座預金 〇〇万円 /(貸方)完成工事未収入金 〇〇万円
未成工事受入金の受取時には、以下の仕訳を行います。
- (借方)当座預金 〇〇万円 /(貸方)未成工事受入金 〇〇万円
工事未払金の支払い時には、次のような仕訳を行います。
- (借方)工事未払金 〇〇万円 /(貸方)当座預金 〇〇万円
以上のように、建設業特有の勘定科目を理解し、適切な仕訳処理を行うことが、正確な財務諸表の作成につながります。経理担当者は、これらの勘定科目の意味と使い方を十分に理解しておく必要があるでしょう。
新収益認識基準の導入と建設業経理士制度
ここでは、新収益認識基準の概要と建設業者への影響、そして建設業経理士制度について詳しく見ていきます。
2021年に導入された新収益認識基準の概要
2021年4月より、従来の収益認識基準から新たな基準へと移行されました。この新基準は、国際的な会計基準との整合性を図るために導入されたもので、大企業や上場企業に対しては強制適用となっています。
新基準では、収益認識の判断を5つのステップに分けて行います。まず契約を識別し、履行すべき業務を特定します。そして取引価格を算定し、それを業務に配分した上で、履行義務を充足した時点で収益を認識するという流れになります。
この新基準の導入により、建設業においても収益認識のタイミングや金額が変更される可能性があります。特に、長期にわたる工事契約については、進捗度に応じた収益認識が求められるようになりました。
新基準の5つのステップ
新収益認識基準では、以下の5つのステップに基づいて収益を認識します。
- 契約の識別:顧客との契約を識別します。
- 履行業務の識別:契約における履行義務を識別します。
- 取引価格の算定:取引価格を算定します。
- 取引価格の配分:取引価格を履行義務に配分します。
- 収益の認識:履行義務を充足した時点で、収益を認識します。
建設業においては、工事の進捗度に応じて収益を認識する必要があります。つまり、工事の完成度合いに基づいて、収益を按分して計上していくことが求められるのです。
この5つのステップを適切に踏まえることで、建設業者は新基準に沿った正確な収益認識を行うことができます。ただし、実務上は複雑な判断が求められるケースも多いため、会計専門家の助言を仰ぐことも重要でしょう。
中小建設業者への影響と対応
新収益認識基準の適用は、上場企業や大企業に対しては強制となっていますが、中小建設業者に対しては任意適用となっています。ただし、将来的に上場を目指す企業などは、早めに新基準へ対応しておくことが望ましいでしょう。
新基準への対応に際しては、社内の会計処理体制の見直しや、従業員への教育、会計システムの改修などが必要になります。特に、工事の進捗度管理については、適切な指標の設定や、定期的なモニタリングが欠かせません。
中小建設業者においては、限られた人的リソースの中で、これらの対応を進めていく必要があります。外部の専門家に相談するなどして、効率的かつ効果的な対応策を検討することが重要です。
建設業経理士制度の概要と4つの級
建設業会計の重要性が高まる中、建設業に特化した会計専門家の育成を目的として、建設業経理士制度が設けられています。この制度は、一般社団法人日本建設業経営協会が運営しており、4つの級で構成されています。
1級は最上位の資格で、上級レベルの簿記や原価計算、会計学の知識に加え、関連法規の理解や財務諸表の作成能力が求められます。2級は、実践的な簿記や基礎的な原価計算、決算実務に関する知識が必要とされます。
3級は、基本的な簿記原理や初歩的な原価計算、決算実務の理解を問われます。4級は、建設業簿記の初歩的な理解を確認する位置づけとなっています。
建設業経理士の資格を取得することで、建設業会計のスペシャリストとしての能力を証明できます。建設業者にとっては、経理部門の強化や人材育成につながるメリットがあるでしょう。また、取引先からの信頼獲得にもつながる可能性があります。
新収益認識基準への対応や、建設業会計の高度化が進む中で、建設業経理士の存在価値はますます高まっていくと考えられます。建設業者においては、この制度を積極的に活用し、経理部門の強化を図っていくことが望まれます。
建設業会計実務の課題とシステム導入
ここでは、建設業会計実務の主な課題と、それらを解決するためのシステム導入の長所、また導入・運用時の留意点などについて見ていきましょう。
建設業会計実務の課題
建設業会計の実務においては、いくつかの課題が存在します。まず、建設プロジェクトの長期性に起因する収益と費用の対応関係の複雑さが挙げられます。着工から竣工までに1年以上を要することが一般的であり、着工初年度は支出が先行する一方で、2年目以降に多額の売上と利益が集中する傾向にあります。
また、建設業では天候や資材の供給状況などの外的要因の影響を受けやすく、工事の進捗管理が難しくなるケースもあります。加えて、着工時と竣工時で材料費や労務費の価格変動リスクも考慮する必要があります。
こうした状況に適切に対応するためには、建設業特有の勘定科目や会計処理方法に精通し、きめ細やかな原価管理を行う必要があります。しかし、経理担当者の人的リソースが限られている中小建設業者にとっては、実務上の負担が大きいという課題もあるでしょう。
会計システム導入の長所
前述のような建設業会計実務の課題に対応するために、専門の会計システムを導入することが有効な解決策の一つとなります。建設業向けの会計システムは、完成工事高や未成工事支出金といった特殊な勘定科目に自動的に対応しているため、仕訳入力の手間を大幅に省くことができます。
また、システム化によって人的ミスのリスクを低減でき、経理業務の作業効率を向上させることも可能です。長期プロジェクトの収支を一元的に管理できるため、工事案件ごとの収益性の把握や、適切なタイミングでの請求書の発行にも役立ちます。
さらに、クラウド型の会計システムを採用すれば、現場と経理部門とのリアルタイムな情報共有も可能になります。工事の進捗状況や原価の発生状況を、タイムリーに把握・分析できるようになるのです。
システム導入・運用時の留意点
会計システムの導入は、建設業会計の課題解決に有効ではありますが、いくつかの留意点もあります。まず、建設業会計は一般の企業会計と比べて理解が難しい部分があるため、会計基準や税務について一定の知識を持った人材を確保する必要があります。
また、会計システムを導入しただけでは十分とは言えません。定期的なデータ入力や、システムメンテナンスを適切に行っていく必要もあります。システム運用のルールを社内で周知徹底し、入力漏れや二重入力などのミスを防ぐ体制づくりが欠かせません。
加えて、会計システムから出力される財務データを経営に活かしていくことも重要です。単に数字を記録するだけでなく、データに基づいた意思決定を行うことで、財務管理の高度化を図ることができるでしょう。
専門人材の確保と継続的な知識更新の必要性
建設業会計の実務を適切に行っていくためには、専門性の高い人材の確保が欠かせません。前述の建設業経理士などの資格を持つ人材を採用・育成していくことが望ましいでしょう。
ただし、建設業を取り巻く環境は常に変化しており、会計基準や税制も例外ではありません。経理担当者には、継続的な知識のアップデートが求められます。社外の研修会などに積極的に参加し、最新の情報を吸収していく姿勢が重要です。
また、経理部門内での知識共有も忘れてはなりません。特定の担当者に経理実務が集中してしまうと、その人材の退職などによって組織の会計処理能力が大きく低下してしまうリスクがあります。マニュアルの整備や社内勉強会の実施などを通じて、経理スキルの組織的な定着を図ることが求められるでしょう。
建設業の会計実務は、一般の企業会計とは異なる特殊性があるため、専門的な知識と経験に基づくきめ細やかな対応が求められます。会計システムの導入は課題解決の有効な一手ではありますが、それだけですべてが解決するわけではありません。経営者は、会計の重要性を認識した上で、中長期的な視点から経理体制の強化に取り組んでいく必要があるでしょう。
まとめ
建設業会計は一般の企業会計と異なる特殊性があり、適切な原価管理と収益性の把握が求められます。特有の勘定科目や収益認識基準を正しく理解し、個別原価計算方式による工事案件別の分析を行うことが重要です。2021年に導入された新収益認識基準への対応や、建設業経理士制度の活用により、経理体制の強化を図ることができるでしょう。会計システムの導入は課題解決に有効ですが、専門人材の確保と継続的な知識更新も欠かせません。