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完成工事未収入金とは?建設業で特殊な勘定科目について

2024.12.13
経営・決算

建設業界では、完成工事未収入金の適切な管理が経営の重要課題となっています。完成工事未収入金は、工事代金の未回収分であり、資金繰りに直結するにもかかわらず、回収までに長期間を要することが少なくありません。この記事では、完成工事未収入金の基本概念から、計上方法、管理手法、決算処理まで、幅広く解説します。

完成工事未収入金とは

完成工事未収入金とは、建設工事が完成し、発注者への引渡しが完了した後、まだ代金の回収が済んでいない債権のことを指します。つまり、工事は終わっているものの、代金の回収がなされていない状態の工事代金が、完成工事未収入金として計上されるのです。

建設工事は、請負契約に基づいて行われます。契約書には、工事の内容、期間、請負金額などが詳細に記載されており、工事完成後、この契約に従って代金が請求されます。多くの場合、請求書の発行から実際の入金までには一定の期間を要するため、その間は完成工事未収入金として管理されることになります。

完成工事未収入金の特徴

完成工事未収入金には、いくつかの特徴があります。まず、建設工事という業種の特性上、完成工事未収入金の金額が高額になる傾向にあります。大規模な工事になればなるほど、請負金額も大きくなるため、完成工事未収入金の額も膨らむことになります。

また、完成工事未収入金は、回収までに長期間を要することがあります。公共工事の場合、工事代金の支払いが年度予算に基づいて行われるため、年度末近くに完成した工事の代金は、次年度以降に回収されることもあります。民間工事でも、大手企業の場合は支払い期限が長く設定されていることがあり、完成工事未収入金の回収までに数ヶ月を要するケースも珍しくありません。

さらに、完成工事未収入金は、工事ごとに個別に管理する必要があります。一般的な売掛金は、得意先ごとに管理することが多いですが、完成工事未収入金は、工事単位で管理しなければなりません。それぞれの工事の契約内容、進捗状況、請求金額などを正確に把握し、適切に会計処理を行うことが求められます。

完成工事未収入金と一般的な売掛金との違い

完成工事未収入金と一般的な売掛金は、どちらも未回収の債権であるという点では共通していますが、いくつかの重要な違いがあります。

  • 発生のタイミング:売掛金は、商品の販売や役務の提供によって発生しますが、完成工事未収入金は、工事の完成と引渡しによって発生します。
  • 管理方法:売掛金は得意先ごとに管理されることが多いですが、完成工事未収入金は個別の工事ごとに管理されます。
  • 回収期間:売掛金の回収期間は比較的短いことが多いですが、完成工事未収入金は、長期間にわたって回収が行われるケースがあります。
  • 計上基準:売掛金は、商品の引渡しや役務の提供時に計上されますが、完成工事未収入金は、工事の進捗に応じて計上される場合と、工事完成時に一括して計上される場合があります。

完成工事未収入金が建設業会計で重要な理由

完成工事未収入金が建設業会計において重要視される理由は、大きく分けて二つあります。

一つは、完成工事未収入金が建設会社の売上高や利益に直結しているからです。工事が完成した時点で、その工事の売上高が計上されますが、実際の代金回収は完成工事未収入金として管理されます。つまり、完成工事未収入金の回収状況が経営に大きな影響を与えることになるのです。

もう一つの理由は、完成工事未収入金の管理が、建設会社のリスク管理において重要な役割を果たしているからです。完成工事未収入金は、回収までに長期間を要することがあるため、資金繰りに支障をきたすリスクがあります。また、発注者の倒産などにより、完成工事未収入金が回収不能になるリスクもあります。したがって、完成工事未収入金を適切に管理し、早期の回収に努めることが、建設会社の財務健全性を維持する上で欠かせません。

完成工事未収入金の計上方法

完成工事未収入金の計上方法について詳しく見ていきましょう。建設業では、工事の収益認識基準によって完成工事未収入金の計上方法が異なります。工事完成基準と工事進行基準の二つの方法があり、それぞれの特徴を理解することが大切です。

工事完成基準における完成工事未収入金の計上

工事完成基準とは、工事が完成し、発注者へ引き渡した時点で、工事の収益と費用を一括して計上する方法です。この基準では、工事が完了するまでは収益や費用を認識せず、完成時に一度に処理します。

工事完成基準を採用する場合、完成工事未収入金は、工事の完成と同時に計上されます。具体的には、工事が完了し、発注者に引き渡しが行われた時点で、請負契約に基づく工事代金の請求額を完成工事未収入金として計上するのです。この時、完成工事高(売上高)も同額で認識されます。

工事完成基準は、工事の進捗状況を管理する必要がなく、完成時点での会計処理だけです。ただし、工事の完成時期が決算期末に近い場合、完成工事未収入金の額が大きくなり、翌期の資金繰りに影響を与える可能性があります。

工事進行基準における完成工事未収入金の計上

工事進行基準は、工事の進捗度合いに応じて、収益と費用を期間帰属させる方法です。長期にわたる工事で採用されることが多く、工事の進捗に合わせて、収益と費用を適切な期間に配分することができます。

工事進行基準を採用する場合、完成工事未収入金は、工事の進捗に応じて徐々に計上されていきます。各期末において、その時点までの工事の進捗度合いに基づき、請負金額に進捗率を乗じた金額を完成工事未収入金として計上します。同時に、同額を完成工事高(売上高)として認識します。

例えば、請負金額が1億円の工事があり、第1期末の進捗率が30%だとします。この場合、第1期末には3,000万円(1億円×30%)が完成工事未収入金と完成工事高として計上されます。そして、工事の進捗とともに、完成工事未収入金と完成工事高が増加していくのです。

工事進行基準では、期間損益をより適切に把握できる一方で、進捗度合いの見積もりが重要になります。適切な進捗率を算定するためには、原価の把握や工程管理が欠かせません。誤った進捗率の採用は、完成工事未収入金の計上額に影響を与え、損益計算を歪めてしまう恐れがあります。

完成工事未収入金の計上時期

完成工事未収入金の計上時期は、工事の収益認識基準によって異なります。工事完成基準を採用する場合は、工事の完成時に一括して計上しますが、工事進行基準を採用する場合は、各期末に進捗度合いに応じて計上します。

ただし、いずれの基準においても、完成工事未収入金の計上は、請求書の発行に連動しているわけではありません。あくまでも工事の完成や進捗に基づいて計上するのであり、請求書の発行時期とは必ずしも一致しません。請求書の発行が遅れたとしても、適切な時期に完成工事未収入金を計上することが求められます。

また、決算期末日をまたぐ工事の場合、完成工事未収入金の計上時期には注意が必要です。期末日までに完成した部分については、たとえ請求書の発行が翌期になったとしても、当期の完成工事未収入金として計上しなければなりません。適切な期間損益の算定のために、決算時の十分な確認が欠かせません。

完成工事未収入金の計上に関する注意点

完成工事未収入金の計上においては、いくつかの注意点があります。特に重要なのは、工事ごとの区分管理です。複数の工事を同時に進行させている場合、それぞれの工事の収益と費用を明確に区分し、個別に管理することが求められます。

また、完成工事未収入金の計上額は、請負契約書の内容に基づいて算定する必要があります。契約書に記載された工事の内容や金額と、実際の工事内容や出来高に齟齬がないか、十分に確認することが大切です。

さらに、完成工事未収入金の計上に際しては、発注者の信用リスクにも留意が必要です。発注者の経営状態が悪化し、工事代金の回収が困難になるリスクもあります。そのため、発注者の信用状況を定期的にモニタリングし、リスクを早期に把握することが重要です。

加えて、完成工事未収入金の計上は、税務申告にも影響を与えます。税法上の収益認識基準と、会計上の収益認識基準が異なる場合があるため、適切な調整が必要になります。税理士等の専門家との連携を密にし、適正な申告を行うことが求められます。

完成工事未収入金の管理

完成工事未収入金の適切な管理方法について説明します。

完成工事未収入金の回収管理

完成工事未収入金の管理において、最も重要なのは回収管理です。具体的には、以下のような手順で回収管理を行います。

  1. 工事ごとに完成工事未収入金を明確に把握する。
  2. 請求書の発行を適時に行い、発注者に代金の支払いを促す。
  3. 回収予定日を設定し、期日管理を徹底する。
  4. 回収が遅れている案件については、発注者に連絡を取り、回収を促進する。
  5. 長期滞留債権については、法的手段も視野に入れた回収策を検討する。

これらの手順を確実に実行するためには、社内の情報共有や連携が欠かせません。営業部門と経理部門が密接に連携し、回収状況を逐次確認することが重要です。また、回収が難航するケースでは、経営層も交えて対応策を検討する必要があります。

さらに、回収管理をより効率的に行うために、IT システムの活用も有効です。完成工事未収入金の管理専用のソフトウェアを導入したり、既存の会計システムに回収管理機能を追加したりすることで、回収状況をリアルタイムで把握し、適切なアクションを取ることができます。

完成工事未収入金の滞留リスクへの対応

完成工事未収入金の管理において、滞留リスクへの対応も重要な課題です。具体的には、以下のような対策が考えられます。

  • 与信管理の徹底:発注者の信用状況を定期的に確認し、リスクの高い先への与信を制限する。
  • 前受金の活用:工事着工前に前受金を受領することで、完成工事未収入金の発生を抑制する。
  • 債権保全措置の検討:保証人の設定や、債権譲渡等の法的手段を検討する。
  • 早期の回収努力:滞留債権の長期化を防ぐため、早期の回収努力を徹底する。

これらの対策を効果的に実施するためには、社内の意識改革も必要です。営業部門には、与信管理の重要性を理解し、リスクの高い案件への対応を慎重に行うことが求められます。また、経理部門には、滞留債権の早期発見と対応策の立案が求められます。

加えて、取引先との関係性も重要な要素です。日頃から取引先とのコミュニケーションを密にし、信頼関係を構築することが、滞留リスクの低減につながります。取引先の経営状況に変化があった場合は、速やかに情報を入手し、適切な対応を取ることが肝要です。

完成工事未収入金に関する内部統制

完成工事未収入金の適切な管理のためには、社内の内部統制を整備することが重要です。具体的には、以下のような統制が考えられます。

  • 権限と責任の明確化:完成工事未収入金の管理に関する権限と責任を明確に定める。
  • 業務手順の標準化:完成工事未収入金の計上や回収に関する業務手順を標準化し、ルール化する。
  • 定期的なモニタリング:完成工事未収入金の状況を定期的にモニタリングし、問題があれば速やかに対応する。
  • 牽制機能の確保:完成工事未収入金の管理に関して、複数部門が相互にチェックする体制を整える。

これらの内部統制を確実に機能させるためには、社内の教育や意識の向上も欠かせません。特に、完成工事未収入金の管理に直接関わる部門のスタッフには、業務の重要性を十分に理解してもらう必要があります。また、内部監査部門が定期的に監査を実施し、統制の有効性を確認することも重要です。

さらに、内部統制の整備に際しては、外部の専門家の助言を仰ぐことも有効です。建設業会計や内部統制に詳しい公認会計士や税理士等と連携し、最適な統制体制を構築することが望まれます。内部統制の整備は、建設会社の財務報告の信頼性を高め、企業価値の向上につながるのです。

「どっと原価シリーズ」は、工事原価管理システムです。工事業務を案件発生から工事完了まで一元管理できるシステムです。完成工事未収入金にあたる債権管理もしっかり運用できます。

未請求や未収金にかかわる情報集計も工事別、請求先別(発注先別)などで実行できますし、債権管理システムのデータ受入機能も備えているので、業務効率を大幅に向上できます。

完成工事未収入金の決算処理

完成工事未収入金の適切な処理は、建設会社の財務諸表の信頼性を確保し、経営判断に必要な情報を提供するために欠かせません。ここでは、決算時における完成工事未収入金の確認、貸倒引当金の計上、財務諸表への開示、そして期末評価について詳しく見ていきましょう。

決算時の完成工事未収入金の確認

決算時には、完成工事未収入金の残高が適切に計上されているか確認することが重要です。工事ごとに完成工事未収入金の明細を作成し、総勘定元帳の残高と照合する必要があります。この際、工事の進捗状況と請求書の発行状況を照合し、完成工事未収入金の計上漏れや二重計上がないかチェックします。

また、完成工事未収入金の残高が長期滞留になっていないか確認することも大切です。滞留債権については、発注者への督促や法的手段の検討など、適切な回収努力を行う必要があります。回収可能性に疑義がある債権については、貸倒引当金の設定を検討しなければなりません。

完成工事未収入金の貸倒引当金の計上

完成工事未収入金には、発注者の倒産等により回収不能となるリスクがあります。このようなリスクに備えるため、決算時には貸倒引当金を計上する必要があります。貸倒引当金は、完成工事未収入金の残高に貸倒実績率を乗じて算定するのが一般的です。

ただし、個別に回収可能性を検討する必要がある債権もあります。例えば、発注者の経営状況が悪化している場合や、工事代金の支払いが長期間滞っている場合などです。このような債権については、個別に回収可能性を見積もり、必要な引当金を計上します。貸倒引当金の計上は、収益性の適正な表示に寄与する重要な会計処理といえるでしょう。

完成工事未収入金に関する財務諸表の開示

建設会社の財務諸表においては、完成工事未収入金に関する情報を適切に開示する必要があります。具体的には、完成工事未収入金の残高、貸倒引当金の金額、そして貸倒引当金繰入額を注記する必要があります。これらの情報は、財務諸表の利用者が建設会社の債権管理の状況を理解するために不可欠です。

また、完成工事未収入金の残高が多額である場合や、滞留債権の割合が高い場合には、追加的な情報開示が求められます。例えば、完成工事未収入金の年齢分析や、主要な発注者ごとの残高内訳などです。これらの情報は、建設会社の信用リスクを評価する上で重要な判断材料となります。

完成工事未収入金の期末評価

決算時には、完成工事未収入金の期末評価も重要な論点となります。期末日現在で計上されている完成工事未収入金が適切な金額であるか、慎重に検討する必要があります。特に、工事進行基準を適用している場合には、適切な進捗率の見積もりが求められます。

また、決算日後に入金された完成工事未収入金がある場合、その処理にも注意が必要です。原則として、期末日現在で計上されている完成工事未収入金の残高は、決算日後の入金実績に基づいて修正すべきではありません。期末日後の入金は、あくまでも期末日時点の見積もりの妥当性を裏付ける証拠として扱うべきなのです。

さらに、完成工事未収入金に関連する収益の認識時点にも留意が必要です。工事の進捗度合いに基づいて収益を認識する場合、適切な進捗率の見積もりが求められます。見積もりの変更により、完成工事未収入金の計上額が大きく変動することがあるため、慎重な判断が求められるのです。

まとめ

完成工事未収入金は、建設業において非常に重要な勘定科目です。工事が完成し、発注者に引き渡した時点で計上されるこの債権は、建設会社の売上高や利益に直結しています。一般的な売掛金とは異なり、回収までに長期間を要することが少なくないため、適切な管理が求められます。

完成工事未収入金の計上方法は、工事完成基準と工事進行基準の二つがあります。前者は工事完成時に一括して計上する方法で、後者は進捗度合いに応じて計上する方法です。いずれの場合も、個々の工事ごとに正確に管理することが重要です。また、発注者の信用リスクにも十分な注意が必要です。

完成工事未収入金の管理においては、回収管理と滞留リスクへの対応が重要です。請求書の発行や入金の督促など、日常的な回収努力を怠らないことが大切です。滞留債権については、早期の対応と法的手段の検討が求められます。さらに、与信管理の徹底や内部統制の整備など、社内体制の強化も欠かせません。

決算時には、完成工事未収入金の確認や貸倒引当金の計上など、適切な処理が求められます。財務諸表においては、十分な情報開示が必要です。完成工事未収入金は、建設会社の経営状態を映す重要な指標の一つなのです。

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