個別原価管理システムの特徴と建設プロジェクトへの適用方法
建設事業において、赤字工事の発生や利益率の低下は深刻な問題です。この記事では、個別原価管理システムの特徴と建設事業への適用方法について解説します。個別原価管理システムを活用することで、工事ごとの原価を正確に把握し、利益を適切に管理することが可能になります。
個別原価管理システムとは何か
個別原価管理システムとは、建設工事における材料費や労務費、外注費などの原価を工事ごとに細かく集計し、管理するためのシステムのことを指します。
このシステムの主な目的は、工事原価の適切な管理による利益の確保と、赤字工事の防止にあります。
建設業では、工事ごとに原価構成が大きく異なるため、画一的な原価管理では正確な利益把握が難しくなります。個別原価管理システムを導入することで、工事ごとの原価を詳細に把握し、適切な利益管理を行うことができるのです。
個別原価管理システムの主な機能
個別原価管理システムには、以下のような主要な機能があります。
- 工事ごとの予算管理と実績管理
- 材料費、労務費、外注費などの原価要素別の管理
- 工事の進捗状況に応じた原価の把握
- 原価データの分析と改善点の抽出
これらの機能を活用することで、工事ごとの原価を細かく管理し、適切な利益管理を行うことができます。また、原価データを分析することで、費用削減のための改善点を見つけることもできるでしょう。
個別原価管理システムを使用する利点
個別原価管理システムを導入することで、以下のような利点が期待できます。
- 工事ごとの正確な利益把握による適切な経営判断
- 赤字工事の早期発見と対策
- 原価データの分析による費用削減の実現
- 経理業務の効率化と作業負担の軽減
個別原価管理システムを活用することで、工事ごとの利益を正確に把握し、経営判断の質を高めることができます。また、赤字工事を早期に発見し、適切な対策を講じることで、損失を最小限に抑えることも可能です。
建設業における個別原価管理の重要性
建設業では、工事ごとに原価構成が大きく異なるため、個別原価管理が非常に重要になります。
適切な個別原価管理を行わないと、工事ごとの利益を正確に把握することができず、赤字工事の発生や利益率の低下を招く恐れがあります。
また、建設業法では、損益計算書に「完成工事高」と「完成工事原価」を記載することが義務付けられています。個別原価管理システムを導入することで、この法的要件を満たすことができ、経営の透明性を高めることにもつながります。
建設事業への個別原価管理システムの適用
建設事業において、個別原価管理システムを適用することは、工事ごとの原価を正確に把握し、適切な利益管理を行うために非常に重要です。ここでは、工事ごとの原価集計方法、予実管理による原価超過の防止、部門別・工種別の原価分析、そして変動費と固定費の分別管理について詳しく説明していきます。
工事ごとの原価集計方法
個別原価管理システムを活用することで、工事ごとに発生する材料費、労務費、外注費などの原価を詳細に集計することができます。この集計方法は、工事別の原価明細表を作成することから始まります。原価明細表では、原価要素ごとに発生した金額を記録し、工事全体の原価総額を算出します。
次に、原価明細表のデータを元に、工事ごとの原価構成比を分析します。これにより、どの原価要素が工事原価に大きな影響を与えているのかを把握することができます。さらに、過去の類似工事の原価データと比較することで、原価の妥当性を検証することも可能です。
予実管理による原価超過の防止
個別原価管理システムでは、工事ごとに予算を設定し、実際の原価と比較することで、原価超過を防止することができます。工事開始前に、詳細な原価予算を作成し、システムに登録します。工事の進行に伴い、実際に発生した原価をシステムに入力し、予算と実績の差異を確認します。
原価が予算を超過しそうな場合には、早期に警告を発し、対策を講じることができます。例えば、材料費が予算を超過しそうな場合には、代替材料の使用や仕入れ先の変更などを検討することができるでしょう。予実管理を適切に行うことで、原価超過を未然に防ぎ、工事の採算性を維持することができます。
部門別・工種別の原価分析
個別原価管理システムでは、部門別・工種別に原価を分析することができます。建設工事では、複数の部門や工種が関わるため、それぞれの原価を正確に把握することが重要です。システムを活用することで、部門別・工種別の原価を集計し、どの部分で原価が発生しているのかを明確にすることができます。
例えば、土木工事と建築工事では原価構成が大きく異なります。土木工事では社内の労務費や重機の使用料、燃料費が大きな割合を占めるのに対し、建築工事では材料費や外注費が主な原価要素となります。部門別・工種別の原価分析を行うことで、それぞれの特性に応じた原価管理を行うことができるのです。
変動費と固定費の分別管理
個別原価管理システムでは、変動費と固定費を分別して管理することが重要です。変動費は工事の規模に応じて増減する原価要素で、材料費や外注費などが該当します。一方、固定費は工事の規模に関わらず一定の金額が発生する原価要素で、事務所の賃借料や設備の減価償却費などが含まれます。
変動費と固定費を分別して管理することで、工事規模の変動が原価に与える影響を正確に把握することができます。また、変動費を適切に統括することで、工事の採算性を改善することも可能です。例えば、材料の大量発注による仕入れ単価の引き下げや、外注先の見直しによる外注費の削減などが考えられます。
「どっと原価シリーズ」は、固定費と変動費の設定をあらかじめ容易に行うことが可能です。
固定費と変動費を適切な設定をすることにより、限界利益目標を最大3年間分管理することが可能です。限界利益はグラフや推移表で月々の結果を確認することができます。人件費をはじめとする固定費が多い建設業では限界利益の考え方が有利です。固定費を現場、現場以外、販管費に分けることで、現場人件費のバランスが分析できます。さらに見込売上入力を毎月実施することで目標達成に対して改善する課題が明確にできます。
個別原価管理システム導入の留意点
個別原価管理システムを導入する際には、いくつかの重要な点に留意する必要があります。ここでは、建設業特有の勘定科目への対応、新収益認識基準への対応、社内体制の整備と教育、そしてシステムのカスタマイズと運用ルールの策定について説明します。
建設業特有の勘定科目への対応
建設業では、一般的な企業とは異なる特殊な勘定科目が使用されています。個別原価管理システムを導入する際には、これらの勘定科目に適切に対応できるかどうかを確認する必要があります。
建設業会計における主要な勘定科目は、以下の7つです。
- 完成工事高
- 完成工事原価
- 未成工事支出金
- 完成工事総利益
- 完成工事未収入金
- 未成工事受入金
- 工事未払金
個別原価管理システムは、これらの勘定科目を正しく処理し、適切な財務諸表作成を補助できるものでなければなりません。また、外注費を原価要素に追加する際の処理方法にも注意が必要です。
新収益認識基準への対応
2021年4月に導入された新収益認識基準は、建設業における売上・原価計上の時期に大きな影響を与えています。個別原価管理システムは、この新基準に対応できるものでなければなりません。
新収益認識基準では、収益認識の段階が5つに分けられています。
- 契約の識別
- 履行義務の識別
- 取引価格の算定
- 履行義務への取引価格の配分
- 履行義務の充足による収益の認識
個別原価管理システムは、これらの各段階において正確なデータ処理と計算ができるものでなければなりません。特に、工事進行基準による収益認識には注意が必要です。
社内体制の整備と教育
個別原価管理システムを導入する際には、社内の体制整備と従業員教育が欠かせません。システムを効果的に活用するには、現場と経理部門の緊密な連携が必要不可欠だからです。
まずは、システム導入の目的を社内で共有し、理解を深めることが重要です。次に、システムの運用ルールを策定し、関係者に周知徹底を図ります。さらに、システムの操作方法や注意点について、従業員向けの研修を実施することをおすすめします。
社内体制の整備と教育に力を入れることで、個別原価管理システムの導入効果を最大限に引き出すことができるでしょう。
システムのカスタマイズと運用ルールの策定
個別原価管理システムは、建設業の業務に合わせてカスタマイズすることが重要です。自社の業務フローや管理方法に合わせてシステムを調整することで、より効果的な原価管理が可能になります。
また、システムの運用ルールを明確に定めることも忘れてはなりません。データ入力の方法や時期、帳票の作成頻度、データの見直し体制などを規定し、関係者に周知することが求められます。
運用ルールを策定する際には、経理部門だけでなく、現場の担当者の意見も取り入れることが大切です。現場の実情を踏まえたルール作りが、システムの定着と活用度上昇につながります。
以上のような点に留意しながら、個別原価管理システムの導入を進めることで、建設業における原価管理の精度を高め、利益の向上と費用削減を実現することができるでしょう。
個別原価管理システムの選定ポイント
ここでは、自社の課題と要件の明確化、クラウド型とオンプレミス型の比較検討、建設業会計に対応した機能の確認、システムの拡張性と保守サポート体制の評価という4つの観点から、個別原価管理システムの選定ポイントを詳しく解説します。
自社の課題と要件の明確化
まず初めに、自社が抱える原価管理上の課題を洗い出し、個別原価管理システムに求める要件を明確にすることが大切です。
工事ごとの原価把握が不十分であったり、データ入力や集計に手間取っていたりといった課題がある場合は、それらを解決できるシステムを選ぶ必要があります。
また、自社の業務手順や組織体制に合わせてカスタマイズできるシステムや、将来の事業拡大にも対応できるシステムを選ぶことも重要です。自社の課題と要件を明確にすることで、最適な個別原価管理システムを選定することができるでしょう。
クラウド型とオンプレミス型の比較検討
個別原価管理システムには、クラウド型とオンプレミス型の2種類があります。クラウド型は、インターネット経由でシステムを利用するタイプで、初期費用が低く、どこからでもアクセスできるのが特徴です。一方、オンプレミス型は、自社のサーバーにシステムを導入するタイプで、カスタマイズ性が高く、大量データの処理に適しています。
それぞれのメリットとデメリットを比較検討し、自社の業務内容や規模に合ったタイプを選ぶことが重要です。
クラウド型 | オンプレミス型 | |
---|---|---|
初期費用 | 低い | 高い |
ランニング費用 | 利用料を支払う | サーバー維持費用が必要 |
アクセス性 | インターネット環境があればどこからでも可能 | 社内ネットワーク内に限定 |
カスタマイズ性 | 制限がある | 自由度が高い |
建設業会計に対応した機能の確認
建設業には特有の勘定科目があり、それらに対応した会計処理が求められます。個別原価管理システムを選ぶ際は、建設業会計に対応した機能を備えているかどうかを確認することが大切です。
具体的には、以下のような機能が必要とされます。
- 完成工事高や完成工事原価など、建設業に特化した勘定科目に対応
- 進行基準による収益認識計算が可能
- 直接工事費、消費税等相当額、共通費の配賦計算に対応
これらの機能を備えたシステムを選ぶことで、建設業特有の会計処理を効率的に行うことができます。また、2021年4月に導入された新収益認識基準にも対応できるシステムであることも重要なポイントです。
システムの拡張性と保守サポート体制の評価
個別原価管理システムは、導入後も長期的に使用していくものです。そのため、将来的な業務拡大や組織変更にも柔軟に対応できるシステムを選ぶことが肝要です。
例えば、以下のような点を評価基準として検討するとよいでしょう。
- 機能の追加や変更が容易に行えるか
- 他システムとのデータ連携が可能か
- ユーザー数や工事件数の増加に対応できるか
また、システムの保守サポート体制も見落としてはなりません。導入後のトラブルにも迅速に対応できるよう、サポート体制が整っている提供会社を選ぶことが重要です。
以上のような選定ポイントを押さえながら、自社に最適な個別原価管理システムを選定することで、建設事業における原価管理の精度と効率を高めることができるでしょう。
まとめ
個別原価管理システムは、建設事業の原価を工事ごとに正確に把握し、適切な利益管理を行うために欠かせないツールです。工事別の原価明細表の作成や、予実管理による原価超過の防止、部門別・工種別の原価分析、変動費と固定費の分別管理など、様々な機能を活用することで、事業の採算性を高めることができます。
システム導入にあたっては、建設業特有の勘定科目への対応や、新収益認識基準への対応、社内体制の整備と従業員教育、システムの柔軟性と運用ルールの策定など、いくつかの留意点があります。自社の課題と要件を明確にし、建設業会計に対応した機能を備え、拡張性と保守サポート体制が整ったシステムを選ぶことが重要です。