エクセルを使った原価計算:建設業での手動管理を効率化する方法
建設業の経営において、原価管理は工事利益の確保に直結する重要な業務です。しかし、エクセルを用いた手作業での管理には限界があり、ミスや属人化のリスクが伴います。システム導入により、データの一元管理や自動集計が可能となり、業務の大幅な効率化が期待できます。移行の際は現状分析を行い、段階的に進めることがポイントです。
エクセルを用いた建設業での原価管理の概要
建設業は受注産業であるため、工事ごとに利益を適切に管理することが重要です。そのため、原価管理は建設業の経営において欠かせない業務の一つとなっています。本章では、エクセルを用いた建設業での原価管理について、その目的や具体的な方法、運用ルールなどを解説します。
エクセルは多くの企業で利用されているアプリケーションで、建設業の原価管理においてもよく活用されています。ただし、エクセルでの原価管理には一定の限界もあるため、運用ルールをしっかりと定めることが肝要です。また、エクセルでの原価管理の長所についても触れていきます。
原価管理の目的と重要性
建設業における原価管理の主な目的は、工事完成までにかかる費用を正確に算出し、費用の改善を図ることです。これにより、各工事の利益を適切に管理し、企業全体の健全な運営につなげることができます。
建設業は、労務費や資材費など様々な費用が発生する業種です。これらの費用を適切に管理することで、無駄な支出を削減し、利益率を向上させることが可能となります。また、原価管理を通じて工事の進捗状況を把握することで、トラブルの早期発見・対応にも役立ちます。
エクセルでの原価管理方法
エクセルを用いた原価管理では、大きく分けて2つの方法があります。1つ目は、既存の原価管理用テンプレートを活用する方法です。インターネット上には無料のテンプレートが多数公開されているため、自社の業務に合ったものを選んで利用するとよいでしょう。
2つ目は、自社オリジナルの原価管理表を作成する方法です。この場合、以下のような手順で作業を進めます。
- 必要な項目を洗い出し、シートに入力欄を設ける
- 数式を入力し、自動計算できるようにする
- 必要に応じてマクロを組み込む
オリジナルの原価管理表を作る際は、自社の業務内容に合わせて必要十分な項目を設定することが大切です。入力する項目が多すぎると手間がかかりすぎますし、少なすぎると管理が甘くなってしまいます。
エクセルでの原価管理の運用ルール
せっかく原価管理表を作成しても、運用ルールがしっかりしていないと十分な効果を発揮できません。エクセルで原価管理を行う際は、以下のようなルール作りが肝心です。
- ファイルの名称ルールを決める(日付や工事名などを織り込む)
- 保存場所を統一する(ネットワーク上の共有フォルダなど)
- 入力・更新のタイミングと担当者を明確にする
ルールを決めたら、関係者への周知徹底が必要不可欠です。定期的に運用状況を確認し、ルールの形骸化を防ぐことも重要な点です。
エクセルでの原価管理の長所
建設業の原価管理においてエクセルを活用するメリットは少なくありません。まず、導入にかかる費用が比較的安価で済みます。高額な専用ソフトを購入する必要がないため、中小企業でも取り組みやすいのです。
また、建設現場の従業員にとっても、エクセルは馴染み深いアプリケーションのため、抵抗感なく利用できるという利点があります。さらに、エクセルは表計算に特化したソフトウェアですから、原価管理に必要な計算式やマクロを駆使して、効率的なデータ処理が可能となります。
エクセルでの原価管理の限界と問題点
建設業におけるエクセルを用いた原価管理は、導入の容易さや現場への馴染み深さなどの長所がある一方で、いくつかの限界や問題点も存在します。本章では、エクセルでの原価管理の課題について、機能面での制限、属人化のリスク、人為的ミスの発生、リアルタイム共有の困難さ、複雑なマスターデータ作成の手間、自動集計やグラフ化の難しさという6つの観点から詳しく解説していきます。
機能面での制限
エクセルは表計算に特化したソフトウェアであり、原価管理に必要な基本的な機能は備えています。しかし、建設業の原価管理では、工事ごとに異なる条件や要因を考慮する必要があるため、エクセルの機能だけでは対応しきれない場合があります。
例えば、複数の工事にまたがる資材の調達や、労務費の配賦など、より高度な計算が必要になることがあります。エクセルではVBAなどのマクロ機能を駆使すれば一定の対応は可能ですが、専門的な知識が必要となるため、現場の従業員には扱いが難しいことも少なくありません。
属人化のリスク
エクセルでの原価管理では、複雑な数式やマクロを作成・管理できる人材が限られているため、属人化のリスクが高くなります。特定の従業員にノウハウが集中すると、その人が休みや異動などで不在になった際に、業務が滞ってしまう恐れがあるのです。
また、引き継ぎが不十分だと、せっかく作成した数式やマクロが正しく機能しなくなることもあります。エクセルでの原価管理を続けていく上では、属人化を防ぐための仕組み作りが欠かせません。マニュアルの整備や、定期的な勉強会の開催などが有効でしょう。
人為的ミスの発生
エクセルでの原価管理は、手入力に頼る部分が多いため、人為的ミスが起こりやすいという問題があります。入力間違いや入力漏れが発生すると、正確な原価の把握ができなくなってしまいます。
ミスを防ぐためには、入力作業の標準化や、ダブルチェックの徹底が重要です。また、エクセルの入力規則機能を活用して、入力可能な値の範囲を制限するなどの工夫も有効です。しかし、完全にミスをなくすことは難しいため、人為的ミスのリスクを念頭に置いた運用が求められます。
リアルタイム共有の困難さ
建設業の原価管理では、工事の進捗に合わせて即座にデータを更新し、関係者間で情報を共有することが重要です。しかし、エクセルでの管理では、即座にデータの共有が難しいという課題があります。
ネットワーク上の共有フォルダにファイルを保存すれば、ある程度の共有は可能ですが、同時に複数人が編集することはできません。常に最新のデータを参照できるようにするためには、専用のシステムの導入も検討する必要があるでしょう。
複雑なマスターデータ作成の手間
原価管理を正確に行うためには、資材や労務、外注先などのマスターデータを整備する必要があります。エクセルで管理する場合、これらのマスターデータを1から作成しなければならず、かなりの手間がかかります。
特に、建設業では多岐にわたる資材を扱うため、品目数が膨大になりがちです。マスターデータ作成の負荷を軽減するには、建設業向けのマスターを提供しているサービスの利用も一案です。ただし、自社の業務に合わせた修正が必要になることも多いため、導入の際はよく検討する必要があります。
自動集計やグラフ化の難しさ
原価管理では、日々の記録を集計し、可視化することが求められます。エクセルでもピボットテーブルやグラフ機能を使えば、ある程度の集計や可視化は可能ですが、大量のデータを扱う場合は限界があります。
また、集計やグラフ作成の手順が複雑だと、現場の従業員には扱いが難しいでしょう。自動集計やグラフ化の機能を充実させるには、VBAなどのマクロを駆使する必要がありますが、専門的な知識が必要になるため、現実的ではありません。やはり、専用のシステムの導入を検討すべきかもしれません。
建設業における原価管理の効率化方法
近年、建設業では人手不足や長時間労働などの問題に直面しており、業務の効率化が喫緊の課題となっています。特に原価管理は、工事の利益を左右する重要な業務ですが、手作業での管理には限界があります。本章では、建設業における原価管理の効率化方法について、原価管理システムや基幹システムの導入、データの一元管理と部署間連携の改善、労働時間上限規制を踏まえたDX導入の重要性という観点から解説します。
原価管理システムの導入
原価管理を効率化するための方策の一つが、原価管理システムの導入です。原価管理システムは、工事ごとの原価データを一元管理し、即座に集計や分析を可能にします。これにより、手入力によるミスを防ぎ、迅速かつ正確な原価把握が実現します。
また、原価管理システムは、予算と実績の差異を自動で算出し、警告を発するなどの機能も備えています。これにより、予算オーバーの早期発見と対策が可能となり、工事利益の確保につながります。システムの導入には一定の費用がかかりますが、長期的には業務の効率化と利益率の向上が期待できるでしょう。
基幹システムの導入
原価管理の効率化を図る上では、基幹システムの導入も有効です。基幹システムとは、会計や人事、販売管理などの業務を統合的に管理するためのシステムのことを指します。建設業の場合、工事管理や資材調達、労務管理なども基幹システムの対象となります。
基幹システムを導入することで、各部門のデータを一元管理し、業務プロセスを標準化することができます。原価管理に必要な情報も、基幹システムから自動的に抽出・集計できるようになるため、作業の効率化が図れます。さらに、部門間のデータ連携が円滑になることで、情報共有の促進や意思決定の迅速化にもつながるでしょう。
「どっと原価シリーズ」は、工事原価を適切に管理できる基幹システムです。工事管理に必要な管理項目を十分に備え、複雑な原価集計の機能も有しているので、自社受注状況や工事進捗状況を分析できます。
集計方法は様々な集計条件を容易に設定できる仕様なので、Excel等の集計ソフトの操作が不慣れでも、必要な情報が的確に得られます。また、細かな機能制限を適切に行うことで、部門を跨いだ情報共有もセキュリティ面を確保しながらリアルタイムに行うことが可能です。
導入にあたっては、要件定義を前提にした操作指導が段階を踏んで行われるため、納得しながら機能習得することができます。
データの一元管理と部署間連携の改善
原価管理の効率化には、データの一元管理と部署間連携の改善が欠かせません。建設業では、工事の進捗に合わせて多岐にわたるデータが発生しますが、これらを一箇所で管理することが重要です。そのためには、クラウド上にデータベースを構築し、各部署がアクセスできるようにするとよいでしょう。
また、部署間の連携を密にすることで、無駄な作業の削減やミスの防止につなげることができます。例えば、資材の発注状況と工事の進捗状況を即座に共有することで、過剰発注や納期遅延のリスクを減らせます。円滑な情報共有を実現するには、コミュニケーションツールの活用なども効果的です。
労働時間上限規制を踏まえたDX導入の重要性
2024年4月から建設業にも労働時間の上限規制が適用されています。これにより、長時間労働の是正が求められることになりますが、単に作業時間を減らすだけでは生産性の低下を招きかねません。そこで重要になるのが、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進です。
原価管理の分野でも、AIやビッグデータ分析などのデジタル技術を活用することで、業務の自動化や効率化を図ることができます。例えば、AIを用いて過去のプロジェクトデータを解析することで、資材の最適な調達タイミングや数量を予測したり、労務費の配分を自動化したりすることも可能になるでしょう。DXの推進には、従業員のITリテラシー向上や、社内の業務プロセスの見直しも必要ですが、長期的には大きな効果が期待できます。
以上のように、建設業における原価管理の効率化には、システムの導入やデータの一元管理、DXの推進など、様々な方策が考えられます。特に、労働時間上限規制を適用された現在、DXの重要性はますます高まっています。建設各社においては、自社の課題を見極めた上で、適切な効率化施策を講じていくことが肝要です。
エクセルから専用システムへの移行手順
エクセルによる原価管理には一定の限界があることから、建設業の効率化を進める上では専用システムへの移行が有力な選択肢となります。ここでは、エクセルから原価管理システムや基幹システムへスムーズに移行するための手順について説明します。
現状の原価管理方法の見直し
まずは、現在のエクセルを用いた原価管理の運用状況を詳細に分析することから始めましょう。具体的には、作成されている帳票の種類や内容、入力項目、計算式、マクロの有無などを洗い出します。
また、原価管理表の更新頻度や担当者、保存場所なども確認しておきます。現状の課題や改善点を明確にしておくことで、新システムに求める要件がはっきりしてきます。
新システムの要件定義
現状分析の結果を踏まえ、新たに導入するシステムの要件を定義します。原価管理に必要な機能や性能、セキュリティ面での要求事項などを具体的に列挙していきましょう。
その際、現場の従業員の意見を十分に聞くことが大切です。実際に原価管理業務に携わる人たちの要求を反映させることで、使い勝手のよいシステムを構築することができます。要件定義の段階で関係者の合意を得ておけば、導入後のトラブルを未然に防げるでしょう。
段階的な移行計画の策定
新システムへの移行は、一気に行うのではなく、段階的に進めることをおすすめします。特に、エクセルでの管理に長年慣れ親しんできた従業員にとって、急激な変更はストレスとなりかねません。
そこで、まずは新旧のシステムを併用しながら、徐々にエクセルでの作業を減らしていくのがよいでしょう。並行稼働の期間を設けることで、新システムの運用に慣れるための時間を確保できます。移行のスケジュールは、余裕を持って設定することが肝要です。
社内教育とマニュアル整備
新システムを円滑に運用するには、従業員への教育が欠かせません。操作方法や入力ルールなどを、研修等を通じてしっかりと周知徹底することが重要です。
また、マニュアルの整備も怠ってはなりません。操作手順書や FAQ集などを用意しておくことで、従業員が自力で問題を解決できるようになります。教育とマニュアル整備は、移行期間中だけでなく、定期的に実施することが望ましいといえます。
以上のように、エクセルから専用システムへの移行は、入念な準備と段階的な実施が成功の鍵を握ります。自社の状況をよく見極めた上で、最適な移行手順を策定していきましょう。システム化による業務効率の改善は、建設業の競争力強化に直結する重要な取り組みだといえるでしょう。
まとめ
建設業の原価管理において、エクセルは手軽さや現場への馴染み深さから広く活用されてきました。しかし、機能面での制限や属人化のリスク、人為的ミスの発生などの問題点も指摘されています。データのリアルタイム共有や自動集計も難しく、複雑なマスターデータの作成に手間がかかるのが実情です。こうした課題を解決し、業務効率を高めるには、原価管理システムや基幹システムの導入が有効でしょう。労働時間上限規制を控え、建設業におけるDXの重要性はますます高まっています。エクセルから専用システムへの移行は、現状分析を十分に行い、段階的に進めることが肝要です。