【原価管理システムの仕組み】なぜ、原価の計算や管理・運用が楽になる?
原価計算を行い、その管理をすることは、適切な価格設定や生産性の高いビジネスモデル構築に不可欠な要素です。そうした複雑な計算や管理をサポートしてくれるのが原価管理システムです。
原価管理システムは各社がリリースしており、公式サイトを見ても機能がズラッと並んで自社に合ったものはなんなのか分かりにくいと感じている担当者もいるのではないでしょうか。
この記事では、そもそも原価とは何か、原価管理システムはどんな仕組みでどんなサポートをしてくれるのかを紹介します。
目次
そもそも「原価」って何?
原価とは、ある商品(またはサービス)が顧客の手に渡るまでにかかった費用のことをいいます。
建設業でいえば、顧客の手へ渡る「商品」とはつまりマンションや施設といった建築物そのもの、および完成までの作業全般を指しますが、原価として扱われるものにはどのような内容があるでしょうか。
まず、建築物には木材や鉄材などの材料が必要となりますが、これらを仕入れるのにかかった「材料費」が原価となります。また、建築作業を行うには現場の従業員が必要となり、直接工事に関わった作業員へ支払う賃金や諸手当といった「労務費」も原価です。
さらに外部の職人や企業に委託する部分があった場合の「外注費」のほか、光熱費や保険料、警備料などの「経費」も原価として算定されます。
上記の原価をすべて足した額が、建設業における 原価です。
単純化して説明すると以上のようなものになります。これが原価の基本です。
原価計算と原価管理について
サービスや商品ごとに対応する費用を計算する「原価計算」
原価計算とは、ある製品(またはサービス)の売上に直接的な対応関係のあるコスト(=原価)を割り出し、その製品(サービス)の原価を計算する方法をいいます。
しかし、その工事のみに関する直接的な材料費や労務費、外注費など定量化できるコストもあれば、例えば、複数の工事(案件)にまたがって管理業務を行う現場担当者の人件費、同じく複数の工事にまたがって関係する現場事務所の経費、各工事に共通して発生する労務費など、工事単体では括れないものもあります。前者を「直接費」、後者を「間接費」と呼びます。
間接費(商品やサービスひとつに対してどれだけかかっているか不透明なコスト)は「材料費」でも「労務費」でも「経費」でも生じます。これは各商品に割り振って処理する配賦計算を行うのが普通です。
原価が分からなければ、値段をいくらに設定すればいいか分かりません。同業を参考に値付けしても、まったく同じ製品を提供しているわけではないので、同じ値段でも利益が出るかどうかは原価計算をしてみないと分からないのです。
原価計算をもとに、経営戦略の観点で運用を決定する「原価管理」
原価管理は、原価計算をしたうえで、利益を確保するために行う経営戦略の一環です。 製品の適正な価格設定を考えたり、コスト削減を検討するために行うものといってもいいでしょう。
例えば、机上で計算して求めた理想的な原価(標準原価)と、実際にかかった原価(実際原価。会計上認められているのはこちらの数値)を比較し、どこに課題があったのかを浮き彫りにできます。
木材製造業を例にしてみます。木製の柱材を作る場合、原木を仕入れ、製材機を使って柱にしますが、標準原価が1万円だったのに対し、実際は1万5,000円 かかっていたとしましょう。この時、どの原価にいくらかかっていたか(=原価計算)が適切に算出されていれば、余分な5,000円 がどこで生じていたかが分かるというわけです。運送費が高いのかもしれないし、加工に時間がかかり労務費が膨らんだのかもしれません。
こういうことが把握できれば、仕入先の検討や機械の新調、製品の価格設定自体の再検討など、重要な経営判断をすばやくできるというわけです。
なぜ、原価管理が重要視されているのか
これまで例に出してきたように、原価管理は飲食業や製造業などで重要視されてきました。もっとも、“作れば売れる”ような高度経済成長期に原価管理はあまり重視されませんでした。かかったコストに利益を載せれば、それで問題なかったのです。
しかし時代は変わり、コストパフォーマンスが意識されるようになりました。情報化社会によって値段の比較が簡単にできることも一因になっているかも知れません。企業はムダを省き、利益率を高める必要が出てきたのです。
スペックが全く同じ商品で値段だけが違うのであれば誰だって安いほうがいいでしょう。それは飲食物や、車や家電のような製品だけでなく、コト消費のようなサービス業や一次産業などでも求められるようになったことを意味します。
経営者の“勘”ではなく、客観的な数字という“データ(原価管理)”によって、より効率的かつ確実性の高い経営戦略を実現できるようになりました。
ボトルネックの解消や効率的な仕入れは会社の利益率を高めます。会社が成長すれば従業員へ還元することができ、モチベーションがアップし、より生産性を高められるかもしれません。
今やビジネスにおいて原価管理は不可欠な要素となっているのです。
「原価管理システム」って何?
では、今回の記事のメインテーマである原価管理システムとは一体どのようなものなのでしょうか。
例えば、予算の比較や利益と損失の把握が簡単に見える化できたり、入力された原価のデータをもとにシミュレーションを簡単に行えたり、資料としてダウンロードできたりします。
ひとつの製品の原価計算をするだけであればExcelを使えば済みますが、製品の種類がいくつもあったり、製造工程が複雑だったり、事業規模が大きくなればなるほどExcelで担当者が計算していくのには限界が出てきます。また、算出されたデータから分析を行うのも一苦労です。
その点、原価管理システムは自由に機能を組み合わせ、自社に最適なシステムにすることが可能です。事業規模や何を管理したいかといった会社ごとの目的を網羅したカスタマイズができ、効率的に原価管理をすることができます。また、各業種に向けた特化型の原価管理システムもあります。
このように、「大切とは分かっていても、いざやろうとしたら面倒」な原価管理をサポートしてくれるのが原価管理システムといえるでしょう。
▼原価管理システムの基本知識について、詳しくは以下の記事でも解説しています。あわせてご覧ください。
原価管理システムを導入するメリットは? 基本機能や活用ポイントを徹底解説
原価管理システムの仕組み 1:原価計算を簡単・正確に行える機能
原価を計算する際は、工程ごと、部門ごと、製品ごとなど細かくソートすることが求められます。
原価管理システムは、こうした情報を入力された伝票から自動で算出できます。また、ヒューマンエラーを減らす工夫として過去の伝票を複写できる機能を持ち、よく使う経費や外注費などの入力を効率的に行えます。
これまで関連する項目を一つひとつ原価計算していた部分を自動化できるというわけです。
このほか、入力情報から標準原価と実際原価の分析(原価差異分析)などをする際、グラフ化して視覚的に分かりやすくしてくれるのも原価管理システムならではです。
予定していた原価と実際の原価の差がすぐに分かれば、対処も迅速に行えます。
原価管理システムの仕組み 2:費用の配分処理に役立つ機能
複数の製品にまたがって関係しているコストは、「1製品単位あたりにどれだけのコストがかかっているか」を明確に出すことができません。
例えば、複数の工事の管理業務を行う現場事務所の光熱費を、「この現場(建築物)に対してはこれくらいかかった」と分けて算出しようとしても、難しいでしょう。
こうした明確に紐付けられないコストは、関係しているものに割り振る(配賦処理する) 必要があります。 諸経費などの間接費用 を配賦率に従って部門へ配賦し、その金額を作業時間や原価実績などの配賦基準で工事に配賦する・・・。読むだけでもややこしいと思いますが、より精密な原価を出すためには確固たる基準の定義が必要です。 基準が曖昧だと、配賦するたびに原価が変わってしまいかねません。また特定の担当者しか定義が分かっていないと、その人がいなくなったら原価管理ができなくなってしまいます。
原価管理システムは予め定義を設定でき、その定義に従って配賦処理を自動で行ってくれます。
これによって担当者の負担を大幅に軽減できるだけでなく、安定した原価管理が可能になるのです。
原価管理システムの仕組み 3:経営戦略に役立つ機能
原価管理システムを使うと、どのような経営戦略を策定できるでしょうか。
例えば工事を請け負うと、 そこには固定費と変動費(費用)、売上高(収益)が発生します。費用のほうが多ければ赤字、収益が多ければ黒字です。それがちょうどプラマイゼロになる点を「損益分岐点」といいます。
企業は当然赤字を避けるべく対処しなければいけません。原価管理システムはその工事の費用と収益から損益計算を行ってくれます。これによってその工事の収益性が分かります。
収益性が悪ければ資材等の原価を見直す、といった経営判断ができるのです。
また、 原価の情報から原価シミュレーションを行うこともできます。
原価の変動リスクを予測しその影響度を分析することで、資材価格変動時のシミュレーションなどを行うことができるでしょう。
こうした各種分析データを集計し指標として示してくれたり、グラフなどで見える化できることを強みとする原価管理システムもあります。
原価管理システムの仕組み 4:外部連携とセキュリティ
原価管理システムは「ITツール」です。したがって、会社で使っている既存のシステムと連携させることも可能です。発注管理や財務会計、給与計算、勤怠管理など多様なシステムと連携することができます。これは他社製のシステムにも対応していることが多く、比較的導入のハードルは低いといえます(連携可否の詳細は問い合わせて確認しましょう)。
システム連携することで入力の手間を省きながら詳細な原価管理を行うことができるでしょう。
ITツールを利用する上で不安になるのがセキュリティ面ではないでしょうか。
原価管理システムで算出されたデータは経営判断をするための重要な情報です。そのため、しっかりとしたセキュリティを用意するベンダーが多いようです。
電話やメール、あるいは直接駆けつけてのサポートを提供しているもの や、オンラインセミナーで解説してくれるもの、適切なバージョンアップを行っているものなど、安心・安全に利用できるシステムを選ぶのがポイントです。
原価管理システムの仕組みを理解して、自社に適したサービスを選択しよう
厳密な原価管理をすばやく行いたいというときは原価管理システムを活用するのがおすすめです。しかし、システムがどういう仕組みになっているのかを理解しないまま「他の会社もやっているから」というような“なんとなく”な理由で始めても思ったような成果は出ないでしょう。
今回の記事を参考に、自社の業務に合った 原価管理システムを見つけ、適切な原価でより安い製品(サービス)をより高品質で提供できるように経営改善を進めてみてはいかがでしょうか。